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大阪地方裁判所 昭和47年(わ)3982号 判決

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、京都産業大学法学部に在学中の昭和四四年九月共産主義者同盟赤軍派に加わり、同年一一月三日の同派による大菩薩峠における軍事訓練に参加した際、同派幹部若宮正則と知り合った。その後、被告人は、昭和四七年六月から大阪市阿倍野区阪南町一丁目一八番二五号所在の箕手荘三号室に居住し釜ヶ崎地区の日雇労務者として働いているうち、同じく釜ヶ崎地区で赤軍派関西地方委員会を名乗り活動している右若宮と再会し、同人ら赤軍派構成員らが前記箕手荘の被告人方居室に出入りするようになり、被告人も同人らと接触するようになったものであるところ、右若宮が、同年八月中旬ごろから同年九月初旬ごろまでの間、同区丸山通一丁目三番三三号所在寿荘一三号室の右若宮方において、警察署、派出所及び機動隊などを攻撃し治安を妨げる目的をもって、ドリンク剤空びんに塩素酸ナトリウム、フェロシアン化カリウム(黄血カリ)、砂糖などを混合した爆薬を入れてジュース缶に収めたうえ、びんと缶との間に溶解した鉛を流し込み、びん口に起爆装置として硫酸を入れた試験管をコンドームで覆ったものをそう入してびんのふたを閉め、更に缶の上部にふたを接着して密閉し、缶を倒立させることにより硫酸がコンドーム膜を徐々に侵蝕して流出し、びん内部の混合爆薬と化学作用を起こして爆発する構造の時限装置式爆発物四個を製造した際、被告人は、右若宮が前記目的をもって爆発物を製造する情を知りながら、

第一  同年八月一七日、右若宮とともに大阪府八尾市弓削二七六番地所在の株式会社金田商店に赴き、右爆発物の組成原料となるべき塩素酸ナトリウム九八・五パーセントを含有する除草剤「クロレートソーダ」一袋一キログラム入り二〇袋を購入し、これを前記箕手荘の被告人方居室まで運搬し、

第二  同月下旬ごろ、前記箕手荘の被告人方居室において、右若宮らの依頼を受け、右爆発物の組成原料及び材料となるべき試験管一〇〇本入りダンボール箱一個、フェロシアン化カリウム五〇〇グラム入りびん三本を預かり保管し、

もって右若宮の前記犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠の標目)《省略》

(殺人未遂、公務執行妨害各幇助罪の成立を認めなかった理由)

本件公訴事実中殺人未遂、公務執行妨害各幇助の訴因は、若宮が警察官らを殺害する目的をもって判示爆発物四個を製造したうえ、昭和四七年九月四日午前三時四〇分ころ、同市浪速区水崎町一八番地所在の大阪府浪速警察署水崎町派出所において、同派出所勤務中の警察官を殺害する目的をもって、右爆発物を同派出所内に仕掛けて爆発させ、同所に勤務中の向署巡査部長坂本亀喜(当四四年)に対し通院加療約一〇日間を要する背部擦過傷等の傷害を負わせてその職務の執行を妨害したが殺害の目的を遂げなかった際、被告人は、右若宮が前記の目的をもって爆発物を製造、使用する情を知りながら、判示第一及び第二の各所為に及び、もって右若宮の前記犯行(殺人未遂及び公務執行妨害)を容易ならしめてこれを幇助した、というのである。

前掲関係各証拠によれば、前記若宮らが昭和四七年六月二八日箕手荘三号室の被告人方を訪れた際、若宮経営の食堂などが捜査当局の手入れを受けたことに対する抗議集会を西成警察署の前で開いていた際、機動隊に労働者の一人が殴られて死亡したとして警察を粉砕しなければならないなどと被告人に話していたこと、翌二九日若宮らが再び被告人方を訪れたときにも機動隊に対し爆弾を投げ付けたら粉砕できた旨述べ、同人が考えた爆弾を図示して説明し警察権力に対する爆弾武装闘争の意図を明らかにしたこと、同年八月一〇日ころ若宮は被告人に対しすでに爆弾を試作して実験したことやその爆弾の構造について語り、その際、被告人は、右若宮から爆弾の製造を手伝ってくれと頼まれて承知したが、同人の前記のような言動やかねてから同人が赤軍派関西地方委員会を名乗り釜ヶ崎地区内の労働者と接触して下層プロレタリアートに依拠する暴力革命を標ぼうし、同地区内で武器を使用して騒乱を起こす、攻撃目標は警察権力であるなどと話していたことから、爆弾を製造使用する目的は警察署、派出所、機動隊などに対する攻撃のためであると認識していたこと、被告人は同年九月四日の夕刊で前記水崎町派出所の爆破を知り、これは若宮らが爆発物を仕掛けたものであると直感したが、右攻撃の具体的対象や日時などについては事前に知らなかったことが認められる。

右事実によれば、被告人は、判示第一及び第二の各所為をなした際、右若宮が爆発物を製造したうえこれを使用して権力機構である警察署等を攻撃する目的を有していたことを認識していたことは明らかであるが、それは漠然とした一般的抽象的な認識にとどまり、それ以上に被告人において若宮が本件爆発物を前記浪速警察署水崎町派出所に仕掛けて同所勤務中の警察官を殺害し又はその職務の執行を妨害する行為に出るものと認識していたとは認められないのみならず、当時若宮の攻撃目標となるべき対象が警察官であるのか、あるいは警察署等の物的施設であるのか、その攻撃の日時などの具体的な事項を認識していたとも認められないのであるから、被告人には本犯若宮の警察官殺害及びその職務執行妨害を幇助する故意を欠いていたものとみるのが相当である。したがって、本件公訴事実中殺人未遂、公務執行妨害各幇助の罪は成立しないが、右各罪は判示第一及び第二の各罪と観念的競合の関係にあるものとして起訴されたことが明らかであるから特に主文において無罪の言渡をしない。

(幇助犯の成立について)

弁護人は、被告人の運搬、保管したクロレートソーダやフェロシアン化カリウムが本件爆発物の組成原料として用いられたことの証明がなされなければ幇助犯の成立は認められないところ、右いずれの薬剤についても右爆発物の原料として用いられたことの証明がないばかりか取り調べられた各証拠によればむしろ他の同種薬剤が右原料として使用された可能性の方が強く、幇助犯は成立しない旨主張する。

前掲関係各証拠によれば、判示第一のとおり被告人が運搬したとみられるクロレートソーダ二〇袋については、昭和四七年九月三〇日、前記箕手荘の被告人方居室において二袋(未使用)、判示寿荘一三号室の若宮方において六袋(使用済)、同年一〇月二四日京都市内において一二袋(未使用)がそれぞれ押収された外、同年九月三〇日、右若宮方においてクロレートソーダと同じく塩素酸ナトリウムを主成分とするクサトールの空袋二五袋(五〇〇グラム入二〇袋、一キログラム入五袋)、同年一〇月二四日京都市内において前記クロレートソーダ一二袋とともにクサトール一袋(一キログラム入、未使用)がそれぞれ押収されたこと、又、フェロシアン化カリウムについては、若宮が昭和四七年八月八日大阪市東区内のキシダ化学株式会社において五〇〇グラム入びん二本を購入し、若宮と同じく赤軍派に属する宮本礼子が同月一七日、同区内の片山化学工業株式会社において同二本を、同日ころ、同区内の島久薬品株式会社において同二本をそれぞれ入手したところ、同年九月四日、同市阿倍野区内の墓地において、フェロシアン化カリウム五〇〇グラム入びん一本(一部使用、前記島久薬品製)、同月三〇日、前記若宮方で同空びん一本(前記片山化学製)、同年一〇月二四日京都市内において、同びん三本(いずれも未使用、前記島久薬品製一本、同キシダ化学製二本)がそれぞれ押収されたことが認められる。そして、被告人の捜査段階及び公判廷における各供述を総合すると、被告人が判示第二のとおり預かり保管したフェロシアン化カリウムびん三本の内訳は右島久薬品製二本及びキシダ化学製一本であったと推認される。

右の事実からすると、被告人が運搬したとみられるクロレートソーダ二〇袋のうち使用されているのは、前記若宮方から押収された六袋であるが、他に同種の薬剤であるクサトールも使用されていること及び被告人の預かったとみられるフェロシアン化カリウムびん三本のうち使用されたのは右島久薬品製のうち一本であるが、他に右片山化学製のフェロシアン化カリウムも使用されているから、本件爆発物の原料として、被告人の運搬、保管したクロレートソーダ、フェロシアン化カリウムが使用されたものとは断定できず、被告人の関与しない塩素酸ナトリウム剤やフェロシアン化カリウムが使用された可能性も否定し難い。

しかし、一方前掲関係各証拠によれば、被告人は若宮と判示の大菩薩峠事件で知り合ったもので、昭和四七年六月初めころ同人と再会した後も赤軍派のいわゆるシンパとして接触していたこと、被告人は前記のとおり若宮が赤軍派関西地方委員会を名乗り暴力革命を標ぼうして、警察権力機構を攻撃するため爆発物を製造使用する意図を有していることを十分に了解し、又、それまでの経験や書物等で得た知識から、本件クロレートソーダやフェロシアン化カリウムが若宮の製造しようとしている爆発物の重要な組成原料であることを承知していたこと、被告人は、同年八月一〇日ころ、若宮から同人が既に爆発物を試作し実験したことを聞かされたうえ爆発物原料の購入を手伝うよう頼まれて承知したこと、そして同月一六日には「明日クサトールを買いに行くから手伝ってくれ」と頼まれ、その際、若宮は被告人の面前で前記宮本に爆発物の製造に使用する鉛や試験管、薬品を買っておくよう指示していたこと、翌一七日被告人は若宮と共に外出し、途中同人から右原料購入の際必要であると指示されて「三谷」なる有合せ印を購入し、若宮において右印鑑を使用して判示第一のとおりクロレートソーダを買い入れた後、被告人と若宮が協力してこれを被告人方まで運搬し、その一部と推定される六袋が前記のとおり使用されていること、その外若宮及び宮本は同月八日ころから同月一七日ころにかけて本件爆発物の組成原料であるフェロシアン化カリウム、硫酸、鉛製シズ(おもり)を手分けして買い集めていること、被告人が判示第二のフェロシアン化カリウムびん三本を預かり保管するについては、これが爆発物の原料であることや若宮がこれを爆発物の製造に使用する意思を有していることを了知していたこと、被告人の保管した右三本のうちの一本と推定されるフェロシアン化カリウム五〇〇グラム中一七八グラムが使用されていること、更に右三本のうちの二本と推定される分については同年一〇月二四日前記のとおり京都市内で押収されるまで若宮において所持していたことが認められる。そして、判示の各薬剤はいずれも除草のような本来の用途に使用されたことをうかがわせる形跡は証拠上全く見受けられないし、クロレートソーダの空袋が前記若宮方から、又、島久薬品株式会社のフェロシアン化カリウムびんが本件爆発物使用の直後に前記阿倍野区内の墓地から試験管七五本など他の関係各証拠品と共に発見されたものであることに照らすと、被告人が運搬、保管したこれらの薬剤は、若宮、宮本らが別個に入手した他の同種薬剤等と共に本件爆発物の原料とする目的で順次買い集められ、若宮が右収集にかかるこれら原料の一部を使用し本件爆発物を製造したものと認められる。ところで、証人徳永脩の当公判廷における供述並びに同人外二名作成の鑑定書によると、「クロレートソーダ」「クサトール」はいずれも塩素酸ナトリウム九八パーセント以上の純度を有する除草剤で、製造会社は異なるものの両者の主成分は同一で極めて類似した性状を有しこれを識別することが困難であると認められ、又押収してあるフェロジアン化カリウム五本に貼付の成分表によれば、島久薬品株式会社、片山化学工業株式会社、キシダ化学株式会社のいずれの製品もフェロシアン化カリウム九九・〇パーセント以上の純度を有するものであることが認められ、右薬剤の性質上相互に識別困難であることはクロレートソーダの場合と同様であると考えられる。このように商品名、製造会社が異なるのみで品質がひとしく、同一主成分の各種薬剤が多数若宮のもとに収集され、被告人においても本犯たる若宮が本件爆発物の製造やその準備をしている一連の過程において、これに必要な原料を同人と共に購入運搬し、あるいは同人らに頼まれて原料を預かり保管し、これらを含む原料の一部が同人により本件爆発物の製造に使用された以上、これを法的評価の面からみれば、被告人の右運搬、保管行為が本犯の爆発物製造を容易ならしめたものと解するのが相当であり、右製造の幇助犯の成立を認めて何ら妨げないものである。

又、弁護人は、被告人が判示試験管を預かり保管したことの証明がなされていないうえ、預かったとしてもその試験管が本件爆発物に使用されたかどうかが明らかでないから、右製造についての幇助犯は前記クロレートソーダなどの場合と同様成立しない旨主張するけれども、被告人は、捜査段階では、供述に多少の変遷はあるが、最終的には、「ダンボール箱を預かった際動かすとカチカチとガラス器具の触れ合う音がしたので宮本に聞くと試験管と言っていた」旨供述しており、試験管を入れてあった右ダンボール箱の形状等についても細部はともかくおおむね被告人の供述と符合していることに照らせば被告人は判示第二のとおり試験管を預かり保管したものと認めることができる。被告人はフェロシアン化カリウムの場合と同様、試験管が本件爆発物の材料として必要であることや若宮が爆発物の製造に使用する意図を有していることを十分に承知していたこと、預かった試験管については若宮らが取りに来るまでこれを数日間保管していたこと、前示のとおり試験管七五本が本件爆発物使用の直後に前記阿倍野区内の墓地から発見されているが、関係各証拠に照らせば、判示第二の試験管の一部は本件爆発物に使用され、右七五本の試験管は被告人の預かり保管した試験管の一部であると推認されることなどの事情を考慮すると、被告人が判示第二のとおり若宮らから試験管一〇〇本を預かり保管した行為は若宮の本件爆発物製造についての幇助にあたるとみて差し支えない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも刑法六二条一項、爆発物取締罰則三条に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、右はいずれも従犯であるから刑法六三条、六八条三号により法律上の減軽をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入し、なお後記の情状にかんがみ同法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書によりこれを被告人に負担させないこととする。

(爆発物取締罰則一条の幇助罪の成立を認めなかった理由)

検察官は、爆発物取締罰則三条(以下単に条数のみを記す)違反の罪(製造、輸入、所持、注文)と一条違反の罪(使用)との関係について(前者の罪は、当該製造等にかかる爆発物を使用すれば、製造等の予備的行為は後者の罪に吸収され、同罪のみが成立する(いわゆる吸収説)と解し、本件において判示爆発物は本犯たる若宮によって使用されているから、被告人の判示各行為もそれによって製造された本件爆発物の使用を容易ならしめる行為として使用罪(一条)の幇助としてのみ評価されるものであるとして被告人の所為につき爆発物使用罪の幇助犯が成立する旨主張する。

しかし、爆発物取締罰則の関係条文を総合して考察すると、一条の幇助は、直接爆発物を使用させることについての幇助行為をなすことをいうものと解するのが相当である。思うに、五条の規定はその文言上本犯が一条に該当する行為に出た場合であっても五条所定の態様における幇助行為についてはなお同条の罪が成立するにとどまるものと解されるところ、爆発物自体の寄蔵(これは同条に該当する)ではなくその原料又は材料の寄蔵のように同条所定の幇助態様に比べてより犯情の軽いとみられる幇助態様について、本犯が爆発物の使用(一条)に及んだ場合に五条にいう幇助態様に該当しないからといって直ちに一条の幇助(最低刑が三年六月の懲役又は禁錮であり五条の場合よりも重い)が成立すると解するのは明らかに刑の権衡を失し、当を得た解釈とはいい難い。

さりとて検察官主張のように、五条は本犯が爆発物の使用(一条)に至らない場合にのみ適用される規定であり本犯が右使用に及んだ場合は五条にいう態様の幇助行為であってもすべて一条の幇助犯が成立すると解するのは、刑の権衡の点では一応それなりに妥当な解決が図られるものの、五条の「第一条ニ記載シタル犯罪者ノ為メ」という文言に反するものといわざるを得ず、立法論としては肯けいに当たるものを含むとしても解釈論としては採用できない。他面からいえば、五条は三条の幇助行為のうち一定のものを重く処罰する(三条の幇助は本来一年六月以上五年以下の懲役又は禁錮である)規定でもあるが、五条にいう態様以外の手段、態様によって三条の幇助行為をなした場合において、前記吸収説にならい、本犯が一条の使用に及んだとき同条の幇助罪が成立するとなれば、五条にいう幇助(三条についての)態様の場合には本犯が右使用に及んだとしてもなお五条の適用を受けるにとどまる(前記のとおり右の場合に一条の幇助とすることはできない)ことと刑の権衡を失することが明らかであるということができる。

してみると、本犯の関係で前記吸収説を是認するとしても、幇助犯の関係では前記のように一条の幇助罪が成立するためには爆発物を直接使用させることについての幇助行為をなすことを要し、五条にいう態様以外の手段、態様における三条の幇助行為についてはたとえ本犯が爆発物の使用に及んだとしてもなお三条の幇助罪が成立するにとどまるものと解するのが相当であり、右のように解することは前記各条項の文言上も肯認されるものと考えられる。

以上の見地からすると、被告人の判示各所為は三条の幇助に該当するものであって、本犯たる若宮が爆発物の使用に及んだとしても一条の幇助となるものでないと解すべきである。

(量刑の理由)

被告人は、昭和四四年四月京都産業大学法学部に入学後学生運動に関心を抱き、同年九月には共産主義者同盟赤軍派に入り、同年一一月初め山梨県下の大菩薩峠で行なわれた同派学生らの計画した首相官邸襲撃を目的とする爆弾投てき訓練に参加するなど過激な行動に走っていた。右事件によって、被告人は、昭和四五年一二月二六日東京地方裁判所で懲役三年執行猶予四年の判決言渡を受け、その際今後非合法の活動には参加しないことを表明したのにもかかわらず、大阪西成の釜ヶ崎地区で赤軍派関西地方委員会を名乗り、同地区内の労働者を煽動して下層プロレタリアートに依拠する暴力革命を標ぼうして活動している若宮正則と接触し、同人の基本路線とする武装闘争を支持し、本件犯行に及んだもので、執行猶予の期間中に前件とその性格を一にする犯行を重ねたことは厳しい非難に値し、しかも被告人の犯行が若宮の敢行した大阪府浪速警察署水崎町派出所襲撃事犯に寄与したもので、右事犯が社会に対し重大な不安を与えたことを考慮するならば、その責任は重いものがあるといわざるを得ない。

しかし、被告人は、若宮と接触しているうち同人の行動が次第に過激化しつつあることに気付きようやくこれに疑問を感じていたところ、同人から判示のごとき爆弾を製造するから手伝ってくれと求められ従来の行き掛り上断り切れず本件犯行に及んだもので、その幇助の態様は受動的、消極的であり、その加担程度もさほど重大なものではないこと、被告人は犯行当時二一歳の若年で自己の行為の重大性を深く認識していなかったと思われるが、本件で逮捕されるや捜査官に対し進んで自己批判書を作成してその非を反省し、保釈後は両親の許に帰り家業である農業に従事し、再犯のおそれは皆無に近いと考えられることなど被告人に有利な情状を考慮すると、被告人に対しては今一度刑の執行を猶予して将来を戒め更生の機会を与えるのが相当である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野芳朗 裁判官高橋省吾、同南輝雄はいずれも転補につき、署名押印できない。裁判長裁判官 浅野芳朗)

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